名古屋地方裁判所 昭和27年(行)13号 判決
原告 日比野一郎
被告 名古屋国税局長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「小牧税務署長が昭和二十六年七月十日原告に対してなした原告の昭和二十五年度所得金額を金十万円とする更正決定及び右更正決定に対する原告の審査の請求に対し、昭和二十七年六月十二日被告のなした棄却決定をそれぞれ取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次の如く述べた。
(1) 原告は昭和二十六年七月十日小牧税務署長より昭和二十五年一月一日より同年十二月末日迄の原告の所得額を金十万円と更正する旨の決定及び被告より昭和二十七年六月十二日原告の被告に対する右更正決定に対する審査の請求を棄却する決定を受けたが、原告の同期間における所得は左記の如く金四万千六十六円の欠損であるから右の更正決定及び棄却決定は取消されるべきものである。
一、総売上高 金二三三、〇八〇円
二、総仕入高 金二七四、一四六円
差引純損失高 金 四一、〇六六円
(2) 原告は右日時頃釣具卸商を営んでいたが、県下遠離地と取引していたため、旅費に多額の金員を費やし、利益少く、一方代金の決済思うにまかせず、欠損を生ずるに至つたから、昭和二十五年四月十九日これを廃業し、同年七月十五日干物食品小売店を開業したところ附近に同業者多く、売上少く商品の腐敗を防ぐため、止むを得ず自家使用に廻すという実情で、最低生活費すら得ることができなかつたという状況であつたのであるから、原告は到底金十万円の所得がなかつたことは明かである。
次に被告が(2)に於て主張する事実のうち、原告の昭和二十五年度の所得が金十七万五千七百円以上であることは否認し、その余の事実は認め、(3)記載の事実のうち協議官の調査にかゝる部分につき各金額が正当であること及び昭和二十五年一月一日より同年十二月末日までの間に借入金のなかつたことを認め、(尤もその後右金十万円の在庫高は昭和二十四年度ではなく昭和二十五年度であつたと訂正し、その後更に昭和二十四年度在庫高は金二十五万円であり昭和二十五年度在庫品は金二十三万三千三百円であつたと再訂正した)なお被告の主張する所得税法による所得額の算定方法は争わないが、かゝる方法によつては極めて不正確な所得額しか得られないから、このような算定方法を使用す可きではない(立証省略)。
被告は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
(1) 原告主張の請求原因事実については、(1)記載の事実のうち原告が金十万円の更正決定を受けたこと、原告の審査請求が棄却されたこと、(2)記載の事実のうち原告が釣具卸商及び干物食品商をそれぞれ同人主張の如き期間営んでいたことは認めるが、その余の原告主張の事実は全て否認する。
(2) 原告は昭和二十六年三月七日、昭和二十五年度分所得金額を金四万千六十六円の欠損あるものと確定申告書を提出したが、小牧税務署長は同年七月十日附原告の所得を金十万円と更正し、これに対する同年八月二日附原告よりの再調査請求を同年十月二十六日附をもつて棄却したところ、原告は更に同年十一月十四日附をもつて被告に対し審査の請求をしたので、被告は協議官を派し調査させたところ、原告の所得は金十七万五千七百円以上であることが認められたので、昭和二十七年六月十二日原告の請求を棄却したのである。
(3) 原告の昭和二十五年一月一日より同年十二月末日迄の所得金額を算定したのは次の如き方法によるものである。
(イ) 所得税法にもとずく事業所得の算定は同法第九条第一項第四号によるものであるが、この方法によるためには収支を明確にしうる諸帳簿の設備と、これが適正なる記載並びに所轄税務署長に対する正確な確定申告とを必要とするものであるが原告の場合は諸帳簿が極めて不完全のため到底右方法によることができないので所得税法第四十六条の二第三項によりいわゆる資産負債の増減方法によつたのである。
(ロ) 原告は小牧税務署長に対し昭和二十五年中における収支について
(一) 昭和二十四年末の
(A)在庫一〇〇、〇〇〇円 (B)現金なし (C)借入金なし
(D)買掛金二七、五〇〇円 以上合計金一二七、五〇〇円
(二) 昭和二十五年度中の支出額は
(A)店舗改修費及び什器三九、六〇〇円 (B)生活費一二〇、〇〇〇円 (C)所得税四二、八〇〇円 (D)借入金なし (E)買掛金なし (F)借家料四、八〇〇円 (G)電燈料二、九六〇円 (H)現金なし
以上合計金二一〇、一六〇円
(三) 昭和二十五年末の
(A)在庫一三三、三〇〇円 (B)現金なし (C)借入金なし (D)買掛金なし
と申出ており
更に又審査の段階における協議官の調査に対し原告は
(1) 昭和二十四年度末在庫品 一〇〇、〇〇〇円
(2) 家計費 六〇、〇〇〇円
(3) 店舗改修費 三九、六〇〇円
(4) 公課金 四二、八〇〇円
(5) 昭和二十五年度末在庫品 一三三、三〇〇円
と申出ている。
従つて右協議官に対する申出にもとずけば、原告は昭和二十五年度において、右(2)(3)(4)(5)を合計したものより(1)を控除した額即ち金十七万五千七百円の所得があつたものというべきである。
(4) 原告は当初昭和二十四年度末在庫品は十万円なることを認めつつも後日これをひるがえし、これは昭和二十五年度末在庫品であると主張しておる。被告はこのような主張の変更には同意しないのであるが、仮にその主張どおりとすれば昭和二十四年度末在庫品は皆無となり、ますます原告の昭和二十五年度所得額を増大させる結果を招くこととなるのである。然しながらその後原告は更に右主張をひるがえし、昭和二十四年度末在庫品金二十五万円、昭和二十五年度末在庫品金二十三万三千三百円と主張するに至つた。勿論このような主張の変更は被告の同意しないところであるが、仮に右変更された主張を正当としてもこの金額並びに前記原告の争わない家計費、店舗改修費、公課金等の各金額を基礎とし資産負債の増減方法により原告の所得額を算出すれば、原告の昭和二十五年度所得額は金十二万五千七百円となるのであるから、やはり原告に対する更正決定額を超過すること明かである。
従つて原告の右いづれの主張を前提として原告の本訴請求はその理由のないこと明かであるといわなければならない。
(5) 以上述べた如く原告に対する更正決定は原告の所得範囲内に止まるものであり、従つて右更正決定並びにこれに対する原告の審査請求を棄却した被告の処分もともに適法であつて、何等これを取消すべき違法は存在しないのである(立証省略)。
三、理 由
原告が昭和二十五年一月一日より同年十二月末日までの間、釣具卸商又は干物食品小売商を営み、同期間の所得金額につき昭和二十六年三月七日金四万千六十六円の欠損である旨の確定申告書を小牧税務署長に提出したところ、同年七月十日附同税務署長より所得金額金十万円と更正され、これに対する同年八月二日附の原告よりの再調査請求も同年十月二十六日附をもつて同税務署長より棄却せられたため、原告はこれに対して更に同年十一月十四日被告に対し審査の請求をなしたところ、被告において昭和二十七年六月十二日右請求を棄却したことはそれぞれ当事者間に争がない。原告は、右期間内においては総売上高金二三三、〇八〇円、総仕入高金二七四、一四六円、差引金四一、〇六六円の損失であるから、右小牧税務署長の更正決定並びに被告の棄却決定はそれぞれ違法であると主張するが、右期間における原告の所得金額が金四万千六十六円の欠損であることはこれを認めるに足るなんらの証拠なく、かえつて当事者間に争のない原告方の昭和二十四年度末在庫品金二五〇、〇〇〇円、昭和二十五年度家計費金六〇、〇〇〇円、店舗修理費金三九、六〇〇円、公課金金四二、八〇〇円、昭和二十五年度末在庫品金二三三、三〇〇円にして且つ借入金なき旨の事実を基礎として(所得税法第四十六条の二第三項による方法で)原告の昭和二十五年一月一日より同年十二月末日までの所得金額を計算すれば、右所得額は金十二万五千七百円となり、更正決定額を超過すること明かである。原告はかゝる計算方法は不正確であるから用うべきでないと主張するが、原告に対しては右所得税法第四十六条の二第三項を適用し得ざるものなる旨の主張立証なき以上、単に不正確なるの故をもつて同条の適用を阻止し得ないことは当然というべきである。
以上の如く、原告の本訴請求はこれを是認するに足りるなんらの理由もないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 山口正夫)